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『狼と香辛料』 シビアな世界で一生懸命にがんばる姿

狼と香辛料は、今から3年ほど前、大学一年生の頃に読みました。その2年後にまさか先物投資をやることになるとは思いませんでしたが、投資をやろうと決意する直前、この作品が脳裏に浮かんだことを鮮明に覚えています。社会について何も知らなかった私に、小さな興味を与えてくれた話です。ですから、ビジネスを軸にした語りになります。

 

先に言ってしまうと内容自体にそこまで大きな仕掛けはありません。あらすじはファンタジーにしてはシンプル。行商人の青年ロレンスが偶然な形で、ホロと名乗る美しい少女――正体は遠い北の地より来た狼と出会う。半ば成り行きで二人は一緒に旅をすることになりましたが、そこに予想外の儲け話がとんでくる、というもの。ロレンスは年齢の割にある程度の経験を積んでいる一人前の商人ですが、ホロは賢狼と呼ばれるほどの頭ですばらしい交渉術を用います。ロレンスの立場がなくなるほどの切れ者ですね。

 

現実世界とファンタジーを混ぜることの面白さは、語るまでもないだろう。コメディの中に時事問題を取り上げたり、メタ的な話であったり、そういうものはファンタジーに限らず存在する。ホロのようなファンタジー要素がありつつ、中身は現代に通じるビジネスの基本が見られる。

この物語における商売人は、現代の商人よりも商人らしい。あくまでファンタジーで、時代背景も昔ですから、戦争がどこかで行われ、横暴な傭兵もうろついています。(傭兵についての描写は2巻)異教徒の存在もあります。通貨が安定していない国も多く、一つの国を信頼し続けることは難しい。そして馬車が使われるような世界ですから、その場所によって値段が全く違ったり、値段があまり変動しない宝石を持ち歩いたり……そんな世界の中で、商人は生きていかなければなりません。つまり、稼げるお金の量が命と直結していると言っていいでしょう。

 

教会でさえも、寄付をしなければ、かまどだって使わせてくれない……同じビジネスでも、現実のビジネスとの意味合いが違いますね。

 

でも、そこがストレートに好き。

ライトノベル的な作品で、人によっては地味に思えるところまで徹底したビジネスを分かりやすく読ませてくれる作品はあまり無いのでは。他のファンタジーのような目立った宣伝文句は用意出来ない。それでも分かりやすい文章とシンプルな構成から、すんなりと入れてしまう魅力があります。もちろん、伏線などを使って儲け話の落とし穴を共感させ、キャラクターを活かすことも行っているが、これは無駄を省いた結果であり、批判も称賛もするべきではないのでしょう。この物語が好きな人は、シビアなこの世界観を体感しつつ、忘れたくない気持ちになる。そして、こう問いかける人もいるでしょう。私たちは、楽しんでいるだろうかと。

 

お金という存在に嫌悪感を持つ人がいる。ファンタジーを現実逃避の材料だと決めつける人がいる。でも、ロレンスはつまらなそうなのかな。ホロはどうなのかな。

投資を行い始め、現実の世界ももちろん厳しいのだと実感しつつ、自ら踏み込めば、心地の良い高揚感を抱く日々を私は送っています。そして最近になって、この作品を何度も読み直しました。生きる意味だとか、普通の暮らしだとか、そればかりではなくて、生きるために一生懸命がんばることの楽しさが、私のような人には足りていなくて、それをこの作品で味わえたのは、ただの気まぐれではないのでしょう。

 

ビジネスの基礎を学びつつ、そのシビアな世界でがんばるロレンスやホロに、言い知れない憧れを抱く。現実の中でファンタジーのようなドキドキを見出せる人になりたい欲求が生まれてくる。

決して王道のファンタジーではありませんが、私たちと似ている世界の中でがんばる姿勢は、ファンタジーらしいドキドキ感を与えてくれるでしょう。

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