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『MONSTERHUNTER ―魂を継ぐ者―』 魅力あるキャラクターと世界観 その2

前回、有名ゲームシリーズのノベライズ版を紹介しました。

 

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前回は……ザックリ書きました( ネタバレをしないように書いているのも何ですが、少し急いで進んでしまった気がします。ですから、前回ではあまり書けなかったところを2つ語りたいかなと。

 ⑴キオという、普通のハンター

4巻では、ミモリという少女がキオに弟子入り志願してきます。その頃にはキオは随分と立派なハンターになっています。(ゲームをプレイした人なら分かると思いますが、1巻ではランポスという人間サイズのモンスターに苦戦していたのに、3巻ではシェンガオレンという超巨大な蟹と戦うことになりますからね。そのシェンガオレンの戦いがかなり有名になり、噂がミモリへと流れたのです)

ミモリは10代半ばの少女で、遠いポッケ村という雪山の村からやって来ました。ミモリの父が村付きハンターとしてポッケ村を守っていたのですが、その父が大怪我を負い、慌てて父の後を継ぐために弟子入り志願してきた……しかも、一人前のハンターでも難しいリオレウスの狩猟が、父が後を継ぐために提示した条件であるとのこと。おそらく、お父さんはミモリを諦めさせる口実で言ったのでしょうが、新人のミモリは本気モードです。

 

中々ハチャメチャな子なんですが、とても真面目で元気、何でもメモを取る良い子です。それに、父のことを心配する気持ちや、父の実力に辿り着きたい気持ちはキオと全く同じなわけで。優しいキオは無視することも出来ず、狩りを教えることになりました。

 

この4巻でキオがミモリのことを心からどうにかしてやりたいと思っていることが描写されています。

最初に会った時から、キオは師匠ではなく、ただ教えるだけに留まろうとします。ミモリにある程度のことを教えてあげられるが、師匠という存在になれる自信はないとキオ自身が正直に言います。その後も、いつも組んでいた三人組のパーティから離れて、ミモリに教えることに専念しますし、買い物に誘ったり、休日に調合を教えたり。

 

よく考えれば、ミモリは駆け出しのハンターであり、リオレウス狩猟を第一優先と考えている――つまり一人前のハンターからしたら、結構なまいきな子なんです。お互いに助け合うのもハンターの世界ですが、父の為に必死すぎて、リオレウスという存在がただの一方的な目標になっているんですね。

そんなミモリに、キオは丁寧にハンターの生活を見せる。キオもまた父を目指してハンターになり、父にこだわり、自分自身のハンター像というのを見出していませんでした。ミモリには何も語りませんが、鏡のように昔の自分を見ているのでしょう。(といっても、最初のキオと比べたらミモリは結構優秀だが)

 

そんなキオは、キャラクターとしてどういった個性を持っているのでしょう。私は良い意味として、キオは普通のハンターなのだと思う。私がこのシリーズを気に入ったのもキオの存在が大きい。自然と人の間にある立場としてハンター家業を営み、大きな家族愛を持ち、良くしてもらった村に貢献しようと頑張っている。結果として超一流のハンターとなる。1巻から最終巻まで読んだ読者として言い換えれば、生意気な子供が普通のハンターとなる話だ。

 

それなのに、キオのことを今でも忘れられない。普通と表現しているこの感情が、他の作品にはないものだからだと思っています。

もし私がモンスターハンターの小説を書くとしたら、個性的なキャラクターをたくさん書くだろう。世界観がとても魅力的だから、ハンターも個性があってしかるべきだと。しかし、こういう普通のハンターを描くことでしか伝わらないものがたくさんある。ゲームのノベライズ版だからこそ、そういうものを望んでいる人がいると思います。

 

⑵戦闘シーン

戦闘描写については好き嫌いが分かれると思います。スピード感が好きな人はあまり魅力に思わない描写です。

4巻、137Pから引用すると、

走り寄った勢いを殺すために右足で踏ん張りながら右で斬りつける。次の動作がはじまるのはその結果を見るより早い。初撃の勢いを殺すと、右足を軸に回転するようにして左右の斬撃を放ち、回転の勢いを突きにつなげる。

キオが双剣を使ってリオレウスに斬りつけているシーンです。久しぶりにキオが双剣を使うシーンなので少し丁寧に書かれている節があると思います。

文章のなめらかさ、シーンを切り替える時の美しさでスピード感がありますが、比較的、臨場感が重視されていると思います。

戦闘よりも、圧倒的なモンスターに対して地道に戦う姿にドキドキしますね。2巻では、まだ未熟さの残るキオが明らかに実力の追いついていない相手に挑み、弱っている姿を終盤まで見せない相手に戸惑う。3巻では伝説級の巨大なモンスターに街全体で挑む。4巻では空の王者ことリオレウスに挑み、ミモリの成長を見守る。最終巻では因縁の相手と対峙し、泥沼の戦いに挑む。

戦う手段は、限られています。ゲームでは閃光玉という、相手の目を光で見えなくするアイテムがありますが、魂を継ぐ者シリーズでも多用します。最終巻に至っては、もう他に手段がないからと、現地調合してまで閃光玉を作り、徹夜で戦い続けます。しつこすぎるだろ!って思う読者もかなりいるだろうなと思いつつ、ある程度がまんして読むと、キオがどれほど辛いのか共感します(笑)これは良いところというか、一つの特徴ではないでしょうか。少なくとも最終巻まで読み続けた人はこういう戦闘も好きだと思いますね。

 

モンスターハンターはこれからもゲームとして続いてゆくと思いますが、シリーズが進む毎に、海に潜ったり、新しい武器が登場したり、世界観もまた変化します。そんな中、⑴で書いたように、あくまでハンターの本質を描いたような普通のキャラクターは簡単に言えばとても渋く見え、ライトノベルとしての分かりやすさも合わさっていて好きです。個性という言葉を甘んじないで、私もこんなキャラクターを描いてゆきたいと思わせてくれました。

 

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